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土岐麻子インタビュー @東洋化成 末広工場

東洋化成末広工場で行われた〈レコード再発見プロジェクト〉のイベント第2弾。ゲストに招かれたのは、洗練されたポップ・センスとキュートな歌声が人気のシンガー、土岐麻子。サックス奏者の土岐英史を父に持つ彼女は、子供の頃からレコードに親しんで育ち、最近では新作をレコードでもリリースするなど、今もレコードに愛着を感じているという。〈レコード再発見プロジェクト〉では参加者とともに工場を見学した彼女に、レコードに対する想い、そして、最新作『Bittersweet』について話を訊いた。

 

 

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−−−−工場見学をされて、いかがでした?

 

「イメージしていたよりも手作業で職人技の世界でしたね。カッティングマシーンは70年代のものらしくて、40年以上経っているのに、ちゃんとメンテナンスされていてすごくきれいなんですよ。時が止まったようというか、タイムスリップしたような気がしました」

 

 

−−−−そこでご自分のレコードもプレスされたと思うと感無量ですよね。しかも、今回は〈レコード再発見プロジェクト〉のために特別に7インチ・シングルもカットされて。

 

「7インチを切るのは初めてなので嬉しかったですね。最初は『Bittersweet』の縮小版みたいなジャケットをデザインしてもらったんですけど、別のジャケにしたほうがスペシャル感があってトキメくかな、と思って、脚をメインにした別の写真を使ったんです」

 

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−−−−素敵なシングルでした。土岐さんはお父さんがミュージシャンということもあって、小さい頃から家にはレコードがたくさんあったんでしょうか。

 

「ありました。物心ついたときからレコードは気になってましたね。ジャケットが大きいから、絵本を見るような感覚で見てたんです。だから、イラストのジャケットがすごく好きでしたね。例えば山下達郎さんの『FOR YOU』を手掛けた鈴木英人さんのジャケットが好きで、ジャケットを見ながら〈きれいだなあ。どこに行ったらあるんだろう、この街は?〉なんて、いろんな想像を膨らませていました。いつもジャケットを眺めながらレコードを聴いていたので、音とジャケットはワンセットだったんです。それがCDになってからなくなったんですよね。中学生くらいだったかな」

 

 

−−−−CDのジャケは小さいですもんね。薄い紙の二つ折りで。

 

「そうなんですよ! なんだか寂しくて。真っ黒のジャケットでも、レコードくらいの大きさだとその世界に入っていけるんです。黒色の意味がちゃんと出るというか」

 

 

−−−−今でも、ひとりでレコードを聴く時間を大切にされているそうですね。

 

「レコードって特別な感じがするんですよ。ジャケットも良いですけど、音も個性的じゃないですか。レコードの音ってすごく好きなんです。うるさくないんですよね。CDだと……もちろん作品にもよるんですけども、ずっとかけてると耳が疲れちゃう。でも、レコードってそうならないんです。たぶん、CDは耳に入ってくる情報量が多いんだと思うんですよね。映像も解像度を上げる方向に進んでますけど、それが必ずしも良いとは限らない気がして。大まかな絵のほうが想像力を掻き立てるんじゃないかと思うんですよ」

 

 

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−−−−確かにそうですね。『Bittersweet』のジャケもレコードだと見応えありますが、この写真は自撮りだとか。

 

「そうなんです。自分で撮った写真のなかから選びました」

 

 

−−−−自撮りの写真をジャケに使ったのは、今回のアルバムの内容と関係あるのでしょうか。

 

「はい。今回は普段自分が考えてることをそのままアルバムにしようと思ったんです。架空のストーリーを作って、それを歌にするっていうのは今までやってきて。そういうことをするのは好きなんですけど。今回はリアルな作品にしたかったんです。というのも、このアルバムを作った時って、40代を前にして、これまでの人生でいちばん心がいろんな方向に揺れ動いていたんです。感動したり、不安に思ったり。そういう気持の揺れを、そのまま作品にしようと思ったんです」

 

 

−−−−そんな時期に自分と向き合いながら曲を書くって、精神的に大変ではなかったですか?

 

「難しかったですね。例えば19歳の女の子が恋に悩んでるとか、キャラクターを想像して曲を書くほうが自分にとっては簡単で、本当の自分の気持ちを知るのってすごく難しい。〈これが好き〉と思っていても、なんで好きなのかをよく考えてみると、実はそこに別のものを投影していて、その幻想が好きなのかもしれない。そういうものを削り落としていく作業が難しかったです」

 

 

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−−−−サウンド面では、あまり音で飾らず、コンパクトなバンド・サウンドが印象的でした。

 

「今回は生バンドで生演奏。勢いみたいなものを大切にしたいと思ってました。それは単純にその時の気分でもあったんですけど、歌詞が心の揺れをテーマにしているので、血の通ったバンド・サウンドがふさわしいと思ったんです。だから今回は、演奏にも歌にも完璧なものを求めなかったんですよね。もちろん、参加して頂いた皆さんは素晴らしいミュージシャンなんですけど、きっちり弾いてもらうというよりは、その人の味が活かせればいいな、という気持ちでした」

 

 

−−−−そういう結果、歌詞もサウンドも親しみやすいアルバムになりましたね。土岐さんの心の揺れを曲にしながらも、そのことについてみんなでわいわいおしゃべりしてるような。

 

「極めて個人的でリアルな作品にしようと思って曲を書き始めたんですけど、出来上がってみたらいろんな人の顔が見えたっていうか。一緒にお茶した友達とか、恋愛した相手だったりとか、家族だったりとか。”土岐麻子”のクレジットの向こうにみんなの顔が見えた、そんなアルバムになりました」

 

 

−−−−ポートレートのつもりが集合写真になっていた。

 

「そうそう。やっぱり、人間は人と関わって切磋琢磨するために生まれてきたのかなって思いましたね。不安や怒り、悲しみみたいなネガティヴなものも人と交わらなければ生まれなかっただろうし。その反対の喜びや幸せもそうだし。完成したアルバムを聴いて、そういうことを考えましたね」

 

 

 

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−−−−アルバムを作ることで、心の揺れを整理することができました?

 

「なんか、すっきりしました(笑)。一曲一曲、自分を掘り下げながら書いたので、〈自分が本当に考えてることって何だろう?〉っていう答えが、ぼんやり見つかってくるんですよ。全曲そういう風にして書いたので、なんだか成長したような気がして。作る前とは明らかに考え方が変わったし、このアルバムは自分にとってひとつの節目になったと思います」

 

 

−−−−無事、40代を迎えられそうですか?

 

「はい。きっと、もう大丈夫です!(笑)」

 

 

(取材・構成:村尾泰郎 / 写真:福士順平  2016831 東洋化成 末広工場にて)