鈴木慶一 × 和田博己 
「ぼくらのオーディオ・ヒストリー」

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『科学的にどうのというより直感だよね。“部屋”が狭く感じる』(鈴木)

 

ーーー分けて使うのはどうしてですか?

 

鈴木「仕事用は基準になるものが必要だから。これ(B&W)で聴くとわからない」

 

和田「YAMAHAのスモールモニターって世界中どこに行ってもあるんです。録音するスタジオが違っても、モニタースピーカーが同じだったら判断しやすいでしょ? 家庭で聴く時は自分の楽しみのために聴くから、そこまで堅苦しいスピーカーである必要はない」

 

鈴木「あと、最近は音楽にかける予算が減ってるんで、昔みたいにミックスでスタジオを借りて1日1曲、10曲あったら10日間かけてミックスをするってことがないんだよ。エンジニアが家でミックスをして、それをファイルで送って来たものをチェックするわけだよ。だからスタジオで聴いて〈良い音だな〉と思って、そこで騙されるとマズい(笑)。例えば権藤(知彦)君のスタジオだと96で録音しているから、音がスゴく良いけど……」

 

和田「プロトゥールズの96キロヘルツのサンプリング周波数で、24ビットで録音しているということです。 “器”がデカいから音も良いんですよ」

 

鈴木「それがCDになると16(ビット)になっちゃう。広い部屋が急に狭くなっちゃうというか、いつもがっかりしちゃうんだよね、CDで聴くと。それを補正するためにマスタリングが必要になるわけ。そのやりとりをファイルを通じてエンジニアとやらなくてはいけないから、基準となるスピーカーが必要になる」

 

ーーーそういえば、20キロヘルツを越えると人間の可聴領域を越えるから、それ以上はいらないという前提でCDの規格(44.1キロヘルツ/16ビット)が設計されたそうですね。それなのに今のレコーディングの主流が96キロヘルツ /24ビットだということは、聞こえないはずの音を我々は聴いているということでしょうか。

 

鈴木「聞こえなくても、聞こえるエリアに影響しているんだろうね」

 

和田「影響してるんですよ。ただ、(CD開発者側が)言ってることはすごい正しくて。つまり、人間の耳は一般的に20キロヘルツまで聴こえると言われてるので、(CDが記録できる)約22キロヘルツまであれば十分ですよと。ところが、録音するほう(デジタル録音機器)はどんどんハイビット/ハイサンプリングになって、今96キロヘルツ/24ビットが主流だし、192キロヘルツ/24ビットっていうその倍のサンプリング周波数で録音する人も多い。クラシックなんかそうなんですよ。だからスタジオでは聴こえない範囲までいっぱい入ってる音を聴いてるんですけど、聴こえないと言いながらCDの音とスタジオの音は明らかに違う。スタジオのほうがニュアンス豊かで温かくて生に近い。それがCDになると、こざっぱりとした音になっちゃう」

 

鈴木「科学的にどうのというより直感だよね。“部屋”が狭く感じる」

 

ーーーお二人はCDの登場にも立ち会ってますが、その時はどんな感想を持たれたのでしょうか。

 

鈴木「当時はアナログレコーディングより、デジタルのほうが部屋が広く感じたんだよね」

 

和田「CDの良いところはSNがめちゃくちゃ良いというか、ノイズがしない。アナログはテープヒスがまずあるけど、CDは音が無いところは静かでしょ。針の音もしないし」

 

鈴木「それで最初にびっくりしたんだ。突然音がドーンと出て〈うわっ!〉ってなる。あの驚きは一生忘れられないない」

 

 

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